「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎

東京創元社ミステリ・フロンティア第1回配本の本書、相変わらず、伊坂幸太郎のかっこいい文章は健在。「重力ピエロ」ほどの重厚感や構成の妙はないけれど、淡い色あいのパステル画を感じさせるような描写の中にときどき光る、警句じみたフレーズが彼らしさを引き立てている。
プロットはそれほどドラマチックな話ではないのだけれど、女たらしとブータン人留学生、それに女たらしの元彼女で今は留学生の恋人である女性を巡る物語が、2年前と現在の時間線を行き来しつつ展開していく。それも、最後には悲劇に向かうとわかっているにもかかわらず。容易に予想できる結末ではあるけれど、その結末のために、ああいう「トリック」が行われていたのかと思うと、登場人物の彼の哀しみも増幅されて感じられるというもの。この「トリック」の理由とも繋がるけど、この国で「外人」であることの非情さはいつになっても残り続けるんだろうかと悲しくなる。
本書はミステリと銘打たれているし、実際、それにふさわしいどんでん返しもあるんだけど、この小説はミステリとは言う必要はないし、言ってはいけないんじゃないかと思う。そういう意味でミステリのフロンティアなんだろうけど、この人には狭義のミステリを意識しないで自由に作品を書いてもらいたい。