〜少女少年~GO! GO! ICHIGO

あらすじ

主人公 杏の幼稚園時代の幼なじみの男の子一期が隣に引っ越してきた。ただし、自分以上に可愛らしい女の子いちごとして。しかも、小学校の同じクラスに転入してきたいちごは、このまま女の子として通していくという。いちごが男であることがばれないように苦心惨憺の杏。そうこうする内に、いくつものいちごの優しさに触れて次第に惹かれる自分に気づいていく。一方で杏のお兄ちゃんにアタックし続けるいちごとの気持ちのすれ違いは、最後には…。

感想

小学5年生連載だった(途中で何年生だかは変わった)少女少年シリーズ1〜7とは、連載誌も違う(ちゃおDX)ため、前シリーズの基本路線「女の子と間違われた男の子が女装して芸能界デビューする」もすっかり変わっていた。あとがきによると、やはり意識して変えたらしい。こっちは、心は女の子だと信じている少年に恋した女の子を描くというストーリー。そういう意味では、ストレートに性同一性障害を描いているわけだけど、当然のことながら特に心の葛藤があるわけでもなく、恋をめぐるドタバタストーリーとなっている。
しかし、前シリーズが好きだった人にしてみると、普通の内容になってしまったようで、正直、つまらない。もちろん、ちゃおDXのメインの読者層を想定すると、このちょっと変なかわいい系男の子に恋する少女の気持ちの揺れを描いて、しかも、奇妙な同性愛状態に対する後ろめたさの味付けもあれば、それだけで許容されるストーリー展開なのかも知れないが。
以前、志村貴子放浪息子」の感想(こちら)でも書いたけど、やぶうち優のこのシリーズの魅力は少年期のみに許される異性への変身をファンタジーとして(内容的なファンタジーではなく、正直ありえない状況という意味で)描いている点にあると思う。思春期前の一時期を全く別の存在として生きた(しかも芸能界というファンタジックな世界で)うたかたの夢は、少年が大人になることで終わりを迎える。そんな限られた、しかも永遠に失われてしまう時間への郷愁をこめて、女装によるコミカルなシチュエーションが描かれているところが、前のシリーズの魅力だと感じるのだ。
そういう点からすると、この作品では、同じ女装ネタではあっても、まるっきり違うものとなってしまっている。いちごの女装は秘匿されるべきものではない上に、限られた期間のものでもない。その結果、前シリーズの女の子(女装した主人公たちだが)がうたかたの夢の中の存在であるのに対し、いちごは現実世界で「社会的に」生きていることになるわけだ。こうなると、まったくもってファンタジーではありえなくなる。
そういう夢の無さを、本作ではマイナスに感じた。

前シリーズの感想

前シリーズの中では4と6あたりがおすすめ。話の流れとしても、萌え度という点でも…。かなり恥ずかしい気持ちになれること請け合い。