「氷菓」 米澤穂信 (ネタばれ注意)

あらすじ:姉から貰った手紙に従い、入ったばっかりの高校で、姉も所属していた古典部に入ったホータロー。部員がいず、廃部の瀬戸際にあるはずだったが、いざ部室に行ってみると既に一人の少女がいた。内側からは決して施錠できない密室状態の部室の中に。その謎を手始めに、いくつかの謎に解答を与えたホータローに少女は一つの願いを申し出る。「子供の頃聞いた伯父の言葉を思い出させてほしい」文化祭に向けて文集作りにはげむホータローたちが見つけた32年前の文集を発端に、33年前の事件と文集のタイトル「氷菓」の真相が明らかになっていく。そしてそれは、少女の願いにも一つの答えを与える。


春期限定いちごタルト事件」がなかなか良かったので、この作者の作品すべてを買ってきた。そして、これがデビュー作。
角川スニーカー文庫ということで文章はややライトノベル系に振れてはいるが、高校を舞台に何気ない日常の謎を解きつつ、全体で一つの大きな謎が明らかにされるという構造は「いちごタルト」と同じ。ついでに、トリックや展開がややこじつけっぽいなという点も同じ。
本作は、主人公ホータローが高校で初めてえるに会うというボーイ・ミーツ・ガール風になっているが、二人の間には薔薇色の何かも、甘酸っぱい何かもあるわけではない(少なくとも今のところは)。ただ、ホータローが謎の解明を通して高校生活に何がしかの意味を見出すことがテーマになっているようだ。そういう点では、やや謎解き重視の展開であり、ライトノベル系青春ミステリの甘酸っぱさを期待するとやや物足りない面もある。
その一方で、33年前の学生運動華やかなりしときの事件をメインに据えて、現代の高校生活との対比を付けるという構成には興味を惹かれた。一般にはありがちな対比ではあるけど、ライトノベル系では他に使われてるのだろうか。ただ、この作品の場合、描き方、対比の仕方が薄い気がしたが。この手の小説では仕方ないのかも知れないけど、最後、ホータローが高校生活の意味を確認するきっかけとして33年前の高校生の生き方というものがあったわけだから、その当時の生き方・考え方をもう少し描いてもよかったかなと思う。それを言わないと、兎が犬と戦わなければならなくなった理由が説明しづらいように思うのだ。
で、最後の謎解きだけど、「氷菓」というタイトルの付け方には、それほど不自然さは感じなかった。高校生が考えられることなんて、その程度のもんだという気がするし。それに、タイトルに込められた意味を小さいえるに伝えなくてはならなかった伯父の無念さにはちょっぴり感動もした。ただ、これも描き方が薄いのが難点かな。
というわけで、及第点は与えられるけど、諸手を挙げて薦められる作品ではないかな。