「夏の名残りの薔薇」 恩田陸

人里離れた山間にある古い英国式ホテルで、オーナー三姉妹が催す年に一度の宴。グランドファーザーズ・クロックが一同を睥睨するそのホテルに招待される客たちは、各人の秘められた思いを胸に、嘘つき女三人の毒気にあてられにやってくる。各人の想いを遂げ、嘘つき女に最期の瞬間(とき)を与えるため。
この一つの主題が、視点人物を変えながら次々と変奏されていく。彼らの制作された記憶が彼ら自身の言葉によって語られながら…。殺されたはずの人物が別の人物の語りに移ると、なおも生きていたり、起こった出来事もなかったことになっていたり。何が真実で何がそうでないかは、彼らの語りと語りの間に浮かび上がる。

去年マリエンバートで」のような小説を挟みつつ、章ごとに視点人物を変えながら語られるストーリーは掴みどころがなく、結局、何が起こったのか?何が真実だったのか分からないまま終わってしまった。終章だけは、宴の時間から離れて特権的な位置にあるようだが、かと言って、そこで語られたことが本当の真実だったとも思えない。ミステリーなのかそうでないのかも、結局はすべて藪の中に残ったように感じた。
嘘つき老女三姉妹に、呪われた血の運命、クリスティー作品を思い出させる雰囲気と、なかなか面白い小道具がそろっているのに、結局なんだったのだ?という終わり方なのはちょっとがっかり。恩田陸にそういう結末を求めるのが間違っているのかも知れないけど。まぁ、雰囲気は味わえたが、ミステリとしては?。