「陽気なギャングが地球を回す」 伊坂幸太郎

こないだ読んだこの人の「重力ピエロ」(感想)はすごく面白くて格好よかった。他のも読んでみようと思って、内容がかなり変そうだった「オーデュボンの祈り」を買おうとするも、amazon.co.jpは在庫なし。とりあえず安かった本書を買った。
他人の嘘を見破る能力を持つ男、嘘八百まじえて話を語らせたら止まらない男、正確無比な体内時計を持ち、車の運転に長けた女、スリが巧く人間よりも動物を愛する男の4人が銀行強盗を企てる。万事首尾よく行って逃走しているときに、車同士がぶつかりそうになった別の銀行強盗に盗んだ金を奪われてしまう。偶然に見えるその出来事の裏で動いている別の企み。盗んだ金を取り戻そうとする彼ら敵の裏をかいて新たな銀行強盗を計画するが…。
あとがきで作者が「90分くらいの映画が好きだ」と書いていたけど、この作品はまさに気楽に見れる90分くらいのエンターテインメント映画という感じ。メジャー配給の大作じゃなくって、若手監督のテンポ感あふれるデビュー作にふさわしい。しかも、「重力ピエロ」がやや重いテーマだったのに対して、こっちは純粋に娯楽一直線。一気に読み通せる軽やかさが一層心地よい。
重力ピエロ」でも感じた、この人の台詞回しの格好よさは、本作品でも遺憾なく発揮されている。さらに本作ではその軽い雰囲気に合わせて、一風変わった登場人物たちによるユーモアあふれる言葉のやり取りが終始展開されている。読む者をただうならせる格好よさだけでなく、思わずニヤッとさせてしまうフレーズの選び方はほんとにすごい。本書の帯にはある評論家の言葉として、この人の文体の「軽妙洒脱」さが褒められていたが、現代的な雰囲気でかつオーソドックスな軽妙洒脱さを備えた文章だと感じた。
ストーリーの最後にはどんでん返しが用意されている。エンタメ作品にふさわしい大きなカタルシスを得られることは間違いなし。細かな伏線もちゃんと押さえられていて、構成を十分に練った上で書かれてるんだなということが実感できる。そういう意味では、うまく出来過ぎた話とも言えるけど、ギャングのだまし合いという形式に則ってその様式美を追求する娯楽作品としては、十分に必要な形式性だと感じる。