「ルナ Orphan's Trouble」 三島浩司

第4回日本SF新人賞受賞作品にして、帯には「筒井康隆、激賞」の文字が踊る。その評判につられて買った作品。日本SF新人賞受賞作品ってのも、この作品が初めて読むものとなった。


マリアナ海溝に落ちた隕石をきっかけとして発生した超巨大なゲル状生命体《悪環》が日本列島を取り囲み、日本は鎖国状態へと追いやられた。同時に強烈な放射線とウィルス状物質が放射され、多くの人が死に、そして血縁者との接触を拒む《似非オーファン》となった。そういう状況下で強く生きようとする少年と少女、《悪環》を駆逐しようとする科学者(かなりマッド系)の行動を描いていく。科学者が最後にとった秘策とは…。


強力な放射線被爆デビルレイズ》の後に到来した、食料統制や闇市が横行する社会が描かれているが、明らかに第2次大戦後の様子を髣髴とさせる。90年代の失われた10年の後に再び到来した敗戦=価値観のリセットを象徴的に描いているとも言える。今の社会に蔓延する行き詰まり感を強制的に0リセットするガラガラポン
しかしながら、SF小説として読むと、面白くないんだよね…。人の心を取り込んで行動してるかのように見えて、その実、その意図は一切感じられない巨大生命体《悪環》はレムの「ソラリス」を思い起こさせるけど、《悪環》はコミュニケーションの相手としては登場せず、ただただ今の飽食の日本に突如立ちはだかった天変地異としての役割でしかない。 なぜ日本列島を取り囲むように移動したのかの説明があれじゃあ、はぁ?という感想しか持ち得ない。結末も結末で、そんなん(一人だけで)で駆逐できるんですか??と率直に疑問をおぼえる。説得力がないんだよね…。
パニック小説や、戦後の動乱期を描いた作品として見ても、第二次大戦後の歴史をなぞっているようで新しさに欠けるし。日本はただただ孤立してるように描かれてるけど、日本経済が灰燼に帰したら世界経済に与える影響は並大抵なものじゃないでしょうとか、在日米軍はそのときどう動くの?とか、いろいろ疑問に思うことが多かった。日本が今、2年あまりの鎖国を行うことの影響が十分に考えられていないような気がした。