「フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人」 佐藤友哉

西尾維新つながりでいくつかの日記見てたら、佐藤友哉という名前が出てきてたので、買ってみた一冊。メフィスト賞系は逐一追ってないもんで、ある程度、評判にならないと自分の目には触れないのです。こんな田舎の書店で平積みになるとか…。その点、西尾維新はずらりと並んでるんだけどねぇ。

この小説のあらすじを大雑把にまとめちゃうと、妹をヤられた主人公がヤったヤツらの娘たちを拉致って監禁して。一方、日本全国の少女を月一ペースで連続殺人してる突き刺しジャックの事件が平行して絡んできて。最後にはそれらが一つにまとまって、背後の事件の真相が…。という感じ。カバーには「本書は『ああっ、お兄ちゃーん』と云う方に最適です(嘘)」とあるけど、たぶん、ほんとにそういう方には不向きだと思う…。

彼の小説を読むのはこれが最初だけど、一番最初に思った印象は、文章が下手。同じメフィスト賞系でも舞城王太郎の文章はリズムや言葉の選び方で独特なものがあってカッコいいし、西尾維新も言葉遊びに執着した文体で巧いかどうかは別としても読んでて楽しい。でも、この人の文章は一般人レベルと言ったら怒られちゃうかも知れないけど、かなり下手。特長ないわ、繋がりをぶち壊すような引用、限定が多々見られるわで、読んでて「…って、関係ないやんっ」ってツッコミたくなる箇所がしょっちゅう。まぁ、最初の小説なので、最近のはもうちょっと巧くなってるのかも知れませんが、とフォロー。

で、肝心の小説のプロットの方は、なんだかご都合主義というか、この現実と重なる世界を築こうとしてるくせに現実感が全くないってとこがダメすぎ。清涼院流水西尾維新みたいに全然別種の世界を築けば、あぁそんなもんかって納得してあげるのに…。「ヒトクイマジカル」でのいーたんの死闘、匂宮兄妹のサイコっぷりも、あの世界でならアリと思えるけど、本書の場合は、それにしては世界が現実的、それにしては運動が非現実的という印象。つまり、西尾維新の世界を支える物理法則はそもそも現実のそれから逸脱してるので、その世界での運動が突飛なのも法則に則った合理性が感じられるのに対して、本書の場合は物理法則はこの現実のそれなのに、登場人物はその物理法則を無視して運動してる感じなのですね。SFの設定でよく語られるけど、嘘をつくのは一つだけで、後は極めてリアルに(その嘘の法則にリアルに則ってでも)展開しないとねー。

この現実ではすでに、そういう物理法則(我々が当然と受け取っている社会規範)から逸脱した事象が頻発するようになってきているけど、好意的に見るとそういうそもそもの根本からの逸脱を描いている世界観なのだと言ってしまえば、言えなくもない。けど、文章は下手。