「嫌われ松子の一生」 山田宗樹

どうしようもなく暗く、救いのない話だった。一人の大学生が殺された叔母の過去をたどって行く中で、一人の女性の転落人生が浮き彫りにされていく。男にだまされ、翻弄されっぱなしの人生は、同時に愛に飢えた人間が愛に恋い焦がれる連続でもあった。でも、結局はだまされ、捨てられ、殺し、殺され…。かなり辛気臭いし、じれったい。
読んでる途中でも、いい加減、嫌になってしまいそうな話なんだけど、450ページの厚い本を数時間で読み終えられるくらいに、話の作りは巧かった。現在と過去とをシンクロさせて描いてく方法とか、暗いとは言っても、たぶんよくありそうな転落っぷりは、至ってオーソドックスで、2時間ドラマにでもありそうな感じではあるんだけどね。たぶん、ドラマで見ても最後まで見ちゃいそう、感動するかは別として。
問題は、最初、叔母さんに何の関心もなかった甥の大学生が、叔母さんの過去を調べていく中で、最後には法廷でああいう行為を取るまでにシンパシーを抱くようになった過程の描き方が不十分かなぁと思ったこと。存在すらしらなかったとはいえ、自分の肉親がああいう理不尽な殺され方(それも理不尽な人生の最期に)をしたらってのは頭では分かっても、確実に感情移入できるほどには、うまく描き込まれてはいないように感じた。もう一つ、大学生の彼女の不審な行動の理由。何かとんでもない秘密が…と思ったんだけどね。たぶん、こういう所がもっとちゃんとしてたら、感動的な結末を迎えられたのかもしれないけど。
あと、どうでもいいことだけど、この小説の舞台のあちこちが、自分のこれまで生きてきた場所と重なっていて、風景を想像しながら読めたのは、いい印象に繋がってるかも。