「歌の翼に〜ピアノ教室は謎だらけ」 菅浩江

菅ちゃんの新作だ。前回の「アイ・アム」はイマイチだったので、今回のには期待。しかも、“音楽”ミステリーだ。菅ちゃんでSFっ気含まない純粋なミステリって他にあったかしらん。

有名音大ピアノ科を主席卒業しているのに、商店街の小さな楽器店で教えるお嬢様系ピアノ教師が、日常生活に起きるちょっとした謎を解決していく連作短編集。北村薫覆面作家シリーズを思い出すけど、二重人格でコミカルな部分もある千秋さんとは違って、こっちの亮子先生は至って正統派お嬢様。しかも、卒業に際して大きな事件に巻き込まれ、ピアノを弾けなくなるほど心に傷を負っている。そんな心に傷を持つ先生が、ピアノ教室の生徒たちの、アルバイトさんの元同僚の、老人ホームのお婆さんの、心の傷を謎といっしょに解きほぐす。そして、最後には…

ミステリにおいて探偵とはそもそも超人なんだけど、前半、この亮子先生も得意の音楽理論に基づいて透徹した推理で解答を紡ぎだしていく。この小説の日常っぷりからちょっと遊離した感もある、その推理にはどうも作り物めいた違和感を抑えきれなかった。でも、後半、過去の事件が絡んできて、亮子先生の心がかき乱され始めると、超人も一人の人間であることが分かってくる。結局、この小説って、亮子先生自身の癒しの物語だったんだね。

亮子先生のキャラも際立ってるけど、彼女を取り巻く脇役連中もなかなか面白いキャラが揃ってた。それぞれ個性的でいくぶん典型的な、ホームドラマチックな感じで。そして、ある意味、事件の主役である生徒たち、子供たちの名前がなぜそうなってるのか。最後のシーンでセピアの画面に色が付くように切り替わる様にはほろりと来てしまった。

北村薫加納朋子などが好きな人には、おすすめの一作。