今日の読了

34. ○ "アンノウン" 古処誠二

(ネタばれ)
自衛隊内に起こった盗聴事件を描いた小説。自衛隊出身という著者なので、ここの事物の描写等はかなり正確なのだろうが、どうも臨場感が感じられない雰囲気。レーダー等の記述を除いては旧軍を舞台にした小説とも思えるくらいに、のんびりというか現代という時代を感じさせない描写だ。今の自衛隊がそういう雰囲気の組織ということなのだろうか。
また、小説の終わりで、自衛隊に対する国民感情との関連が語られるのだが、そこがどうにも言い訳じみているように思った。そういう思いが彼らの中にあるのは当然だと思うし、それがこの盗聴事件の基底にあるのも納得はできるので、こんな言い訳っぽく付け加えるよりはもっと自然にストーリーの中に紛れ込ませて欲しかった。でないと、しようもない左右のイデオロギー対立に吸収されてしまい、勿体無い。
ミステリとしての評価はまあまあ。探偵役の人物的魅力がもう一つなのと、ワトソン役にももう少しクセが欲しい。ただ、例のあまりない自衛隊ミステリとしては楽しめた。多島斗志の「海上タクシー<ガル3号>備忘録」のように連作化しても面白そうに思った。アニメ「よみがえる空 -RESCUE WINGS-」のように自衛隊の実際の活動を織り交ぜながら。