「春期限定いちごタルト事件」 米澤穂信 (ネタばれ注意)

ほんわかしたミステリが好きで、でもライトノベル的雰囲気も嫌いじゃなく、どっちかと言ったら、その中間位のがあったらいいなと、のび太よろしく小市民的願望を持っている人は、以下は読まずに、作品そのものを読んだ方がいいです。いや、マジで。


あらすじ:「小市民たれ」を信条に生きる小鳩常悟朗と、常に彼の背中に隠れてばっかりの引っ込み思案な小佐内ゆき。恋愛関係にはないが互恵関係にあるこの二人は、いっしょして入ったばっかの高校でも周りに目立たぬように小市民道を邁進…のはずだった。だが、平凡な日常生活にも何気ない謎は転がっている。腐れ縁の友人に振り回されるままに、その謎解きに巻き込まれ、決してすまいと誓った探偵役を演じる羽目になる常悟朗。そして要所要所で推理をサポートする羽目になっているゆき。そんなある日、1年間待ちに待った春期限定のいちごタルトを乗せた自転車をゆきが奪われたことから、二人の小市民的生活は脆くも潰え去り、封印した恐るべき過去が陽の下にさらけ出されはじめる。そう、甘いものの恨みは恐ろしいのだ…

5篇の連作短編の形態で、高校生活におけるささやかな謎解きが描かれる、ライトノベル系青春ミステリ…かな。たぶん…
最初の2篇目あたりまでは、正直、ちょっと微妙な思いで読んでいた。高校生の男女を主人公にして、加納朋子っぽい雰囲気で描いた短編集なのかな、と。しかも、トリックに格別の何かがあるのでもなく、やや牽強付会な気のある展開。キャラ的にも取り立てて魅力があるわけでもない(ちびっ子、引っ込み思案系に萌える人は別だが)。だが、これは二人の小市民偽装にまんまとだまされていたからなのだった(トリックや展開の微妙さは最後まで変わらなかったけど)。
3篇目以降、だんだんとキャラが立ち始めてくる。手始めが友人の姉。典型的なライトノベル・アニメ的キャラ設定である。さらには、小佐内さんも実は一癖も二癖もある子だということが匂わされ、自転車を盗んだ男を仕留める最終話では彼女の封印していた性格が露わとなる。
ここまで来て感じた。この二人、西尾維新いーたんと友に似てる。封印した過去の性格は明らかにこの二人と重なるものがある。戯言シリーズを現実的な話にして加納朋子的雰囲気で描いたら、まさに本書になるのではないだろうか。こういう展開、かなり好みである。解説の人と同じく、小佐内さんの過去がしりたい…