「スペイン「ケルト」紀行−ガリシア地方を歩く」 武部好伸

スペインの中でも、いわゆる「スペインっぽさ」のないガリシア地方。燦燦と照りつける陽光に一面のひまわり畑、哀愁漂うフラメンコギターの調べという誰もが想像するスペインらしさはここにはない。日本からの観光客もほとんど行かないこの地方は、陽光の代わりにオルバーリャと呼ばれる小ぬか雨が降り、フラメンコギターの代わりにサウダーデをうたうガイタ(バグパイプ)が流れる湿潤な土地。そして、古くローマ時代以前よりケルト人が住んでいた土地でもある。そういうスペインの辺境とも言えるこの地方を、ケルト人の生まれ変わりを自称する著者がケルトを探して旅した紀行文が本書。ガリシアにあって日本でもよく知られているものと言えば、カトリックの巡礼の道 El Camino の終着点 Santiago de Compostela が有名だけど、この街に関する記述は本書ではごく僅か。それよりも、ヴィラドンガ、バローニャ、サンタ・テクラなどのケルト遺跡巡りを軸に、今のガリシア人の中に残るケルト気質を発見する旅と言ったほうがよいかな。
マイノリティマニアの自分としてはケルトも魅力なんだけど、それよりも田舎ファンとして、ヨーロッパの片田舎スペインのさらに辺境の地ガリシアを旅した稀な旅行記として本書を手に取ったのだった(って言っても買ったのは去年の6月15日。半年近くも放っておいたけど)。でも、そういう観点からだと本書はそれほど面白くないんだな。自分としては、もっと地元の人とのコミュニケーションの様子などを事細かに書いてある方が旅行記として楽しいのだけど、本書の場合、土地土地で出会ったケルト的なものに対して、その歴史とか他の地方のケルトとの共通点の記述とかが多いせいで、旅行記としてはそれほど旅の楽しさが伝わってこないだよね。なんちゃら新書の「ガリシアケルト入門」って雰囲気の内容に紀行文が付け加わった感じで。そういう意味では期待はずれ。
でも、これまであんまり紹介されることのなかったスペイン・ガリシアでのケルトの血脈をうかがい知るという意味では、よい入門書にはなるのかなとも思う。と言っても体系だってるわけではないので、ある程度の前提知識がないとつらいものもあるけどね。
本書を読んで収穫だったことは、Carlos Nunezという若きガイタ奏者の存在を知ったこと。つい先日、日本でもライブがあったようだけど、ガイタ(バグパイプ)でケルトを奏でるスペイン人(ガリシア人)って、かなり惹かれるものがある。CD買っとこう。