「神様のパズル」 機本伸司

宇宙は無からのビッグバンで始まった。だったら、どこにでもある(もちろんどこにもない)無から、人は宇宙を作ることができるのか?落ちこぼれ主人公の卒業がかかったゼミのディベートで、16才で大学生の天才少女が提案したテーマが選ばれた。しかも、性格に難ありなこの少女と組んで、宇宙が作れることを立証しなくてはならない。少女に振り回されながらも、次第に彼女の悩み、寂しさに気づいていく主人公。そして、少女はシミュレーションを通して物理の最終理論へとたどり着き、孤独と絶望の中、できたばかりの巨大加速器を使って宇宙の生成を試みる…。


面白かったか、そうでないかという点では面白かったという感想になる。宇宙を作るという壮大にして奇天烈なテーマをどう処理するのだろうと、なかば時間の無駄になるのを覚悟して読んだけど、その点に関しては結構、直球勝負で挑んでいて良かったとは思う。もちろん、後半、理論的な説明はかなり煙に巻いている印象があったけどね。
ただ、問題なのはディテールが嘘くさいんだよね。リアリティがないというかね。そもそも天才少女のキャラがおっさん臭い。男性口調なのは問題ないんだけど、おっさん口調なのは違和感ありまくり。っていうか萌えない…。この作者は40代後半なんだけど、彼の口調そのまんまじゃないかしらんと思うほどだ。このキャラが魅力的じゃないと、クライマックスのシーンでの感情移入に難があるじゃないか。それとエンディングでの彼女の変貌ぶりが唐突すぎ。おっさんから可愛い少女じゃ説得力ないよ。親の愛に飢えていたというのはありきたりだけど、結末のつけ方としては分からんではない。けれど、それまでのキャラの性格があれだったのに、いきなりこれはないだろう…って感じだね。
後、話の中核に位置するシミュレーション。これもちゃんと考えてないだろうという印象。だって、すでに論理的な宇宙を作り出してしまってるんだもん。ビッグバンから始まったシミュレーションの中で、知的生命体が発生し、そして彼らによる宇宙生成の試みにより、シミュレーション宇宙は終焉を迎えている。おいおい、こんな重大なシミュレーションをさらっと実現させないでよ。しかも、せっかくこのシミュレーションによって、少女は造物主の立場になれたのに、プロットの中ではそれほど有効活用されていないんだよね。シムピープルと少女の関係を、少女と”彼”(造物主)の関係に相互作用させるともっと面白い展開になったかもしれないのに。