「被差別部落の青春」 角岡伸彦

隠された存在になってしまいがちな部落の人たちが、今現在、抱える問題や苦悩、またはそんなの端から抱えてない人もいるってことを、この本を読めば生き生きと伝わってくる。「コリアン世界の旅」の野村進さんが本書の解説を書いているけど、同じように見えない存在となっていた在日コリアンを浮き彫りにしたこの本と本書は姉妹篇とでも思えそうな、同じように爽快な読後感を感じた。運動運動してない、普通の人たちの率直な声が聴けるってことは、彼らのメンタリティや問題の本質を感じるのに大いに役立つと思う。しち面倒くさい差別問題の歴史や分析の本を読むより何倍も身近に感じられるからね。部落問題、何それ??って人にこそ、オススメしたいです。「コリアン世界の旅」と併せて読んでみて欲しいな、面白いから。

在日については「コリアン世界の旅」の後、在日であることを公言する芸能人も出てきたりと、次第次第に顔の見える存在になってきてる(今は北朝鮮問題で風当たりも強いけど)けど、部落出身者については相変わらず見えないまま。自然と、部落問題なんて過去の話だと意識しなくなって、そのくせ、やれ結婚だとなると、妙な差別感覚がひょっこり立ち現れるという感じになってるんじゃないかな。もちろん、よしりんみたく、解放フェスティバルやれとは思わないけどね。在日は、在日であることを普通に言えるのが正常態であって、部落出身者は言う必要がないのが正常態だし。ここらへんは難しいな。

自分自身は「コリアン世界の旅」を読んだ後に初めて在日に出会い、その後、部落出身者とも出会った(本書にも知人の話が紹介されていた)。当たり前だけど、彼らはみんな普通の人たちだった。同和教育で語られるような悲惨な状況は、今の時代、少なくとも衣食住に関しては全くと言っていいほどない。逆に言うと、この人たちを区別・差別して何になるん??という気持ちの方が強い。でも、彼らの話を聞くと、相変わらず、差別は残ってるんだよね、特に結婚のように法規制の効かない領域で。ただ、本書によると、最近の部落出身者の75%は部落外の人たちと結婚してるそうだし、在日についても日本人との結婚比率が高まっているとも聴くし、確実にその壁が低くなってきていることは間違いない。

以前、「耳の聞こえない人と結婚したらどう思う?」と親に聞いたことがある(ちょうど「君の手がささやいている」を読んでた(笑)。親の答えは「自分で選んだんだったら」という微妙なものだったけどね。本当はイヤだけど子供が選んだのだったら仕方ないって意味かとツッコみたくなったけど、親の差別意識を白日の下にさらけ出すのはやっぱりイヤなもので、その時は何も言わなかった。今度、在日朝鮮人や部落出身者と結婚しても問題ないか聞いてみようかな。

また本書では、部落民自ら、ムラと呼ぶ部落内での人付き合いの濃さも描かれている。同じような境遇を抱える者としての、家族のような連帯、一体感が存在しているらしい。在日の人たちの間でも、同じ在日と分かったときには旧知の友を超えて兄弟のように親しく付き合うことが普通に見られて、端から見てて内心すごくうらやましかった。同じ属性を持つってことだけで仲間として繋がれることに。振り返って見ると、自分には仲間なんて誰もいないじゃないかって気づかされるんだよね。在日でも部落出身でも障害者でもうちなんちゅでもアイヌでも女性でもゲイでもない、その他大勢の一人。そういう空虚な存在は、8光年先の誰かとケータイで繋がってることにでもすがるしかないんだよね…。