「day dream」「moon dance」 Ann Sally
名古屋生まれの在日三世にして、ニューオーリンズで心臓外科医として働いている歌手、アン・サリーによる、全く同じ日に全然別のレーベルから発売された二つのアルバム。ともに、様々な時代、様々な地域からのカバー曲で構成されてます。
とあるように、同じカバーアルバムだけど、それぞれのカラーは結構、はっきり分かれてる。下の曲リストを見ても、そのバラエティーの広さは分かるでしょ。
いささか乱暴にイメージを分けるとすれば『day dream』ははっぴぃえんどを再評価する若い世代へ向けたオルタネティヴな名曲群、『moon dance』はノラ・ジョーンズに代表される新しい形のスタンダード・ヴォーカル集といったところだろうか。
- Disney Girls (Bruce Arthur Johnston)
- Love Song (Lesley Duncan)
- Rainbow Sea Line (吉田美奈子 / 佐藤博)
- A Menina Danca (Moraes Moreira, Galvao)
- Misty Roses (Tim Hardin)
- 三時の子守唄 (細野晴臣)
- Cause We've Been Together (りりィ)
- 週末のハイウェイ (佐藤奈々子 / 佐野元春)
- Freedom For The Stallion (Allen Toussaint)
- こころ (キム・ドンミョン / 沢知恵)
- Do You Know My Jesus (V B Ellis, W F Lakey)
- I Wish You Love (Charles Trenet, Leon Chauliac, Albert Askew Beach)
- Onde Eu Nasci Passa Um Rio (Caetano Veloso)
- Haven't We Met? (Ruth Batchelor, Kenny Rankin)
- 蘇州夜曲 (西條八十 / 服部良一)
- Peaceful (Kenny Rankin)
- Only Love Can Break Your Heart (Neil Young)
- Happier Than The Morning Sun (Stevie Wonder)
- 星影の小径 (矢野亮 / 利根一郎)
- 5 / 4 Samba (Hirth Martinez)
- Meu Carnaval (Ronaldo Bastos, Celso Fouseca)
- Allelujah (Mark Nevin)
たぶん、聴く人の音楽的なバックグラウンドによって好みの一枚は違うかも知れないけど、どちらかでも好きになった人はきっと両方とも気に入るはず。自分としては、Bossa系のリズミカルな曲から「蘇州夜曲」までバリエーションのある「moon dance」の方が全体としては好みなんだけど、「day dream」のいくつかの曲は1曲だけでも十分に聴く価値ある。「こころ」も沢知恵とはまた違った雰囲気でいい感じだし。
結局、彼女自身のお気に入りを集めて、彼女自身の好きなように歌ったものだから、彼女の声・歌い方が存分に生かされて、それを堪能できるアルバムに仕上がったんだろうね。
「前作は、みんなにとってのスタンダード的な曲を選んだんですけど、今回は自分のストライクゾーンを狙おうと思って」
「今回はぶっといところを出したいという気持ちが強くて、周りから〈こういう風にやったらどう?〉って言われても、聞き入れずに歌っちゃったりしてる(笑)」
そんな彼女の声は優しく、温かく、そして力強い。凛としたその声の力強さには、どこか母親的な強さを感じるんだよね。きたはらいくも彼女の歌に一目惚れして、こないだのライブで(カバーの)カバーをしていたけど、Ann Sallyの歌は女性の方が受けるのかも知れない。仕事に疲れて帰ってきた30前後の女性の方、このアルバムを聴いてみてくださいな。癒されるっていう積極的効果よりも、疲れが消える/忘れちゃう、そんなゆるゆるした効果がきっとあるから。それにこのアルバム、休日よりも平日夜の雰囲気に合ってるんだよね。