「プラスティック」 井上夢人 (ネタバレ)

昨日の11時半頃から読みはじめた井上夢人の「プラスティック」を2時過ぎに読み終わる。途中、読者への挑戦とも言うべき種明かし(?)がある前から、一部の登場人物について、多重人格ではないかと疑ってはいたが、最後には何か大きなどんでん返しがあるのではないかと期待していた。結末は、すべての著述人物がすべて多重人格のそれぞれの人格であるという驚きはあったが、大枠は多重人格者に関する小説で終わったようだ。「ダレカガナカニイル」の作者ということで、自分の中にも期待するものがあったのだろう、いささかがっかりした気持ちで読み終えた。確かに多重人格物をミステリーの枠組みで描いたこと、すべての人物が多重人格の一部であったこと、人格の入れ替わりが分からないように、前半は巧みに記述されていることなど、うまさに感嘆するところは大いにあったのだが。しかし、最後の種明かしで、ミステリとしてやや致命的な問題があった。洵子としての日記を書いていた人格のとき、本来の自分の部屋から、本物の洵子の部屋へと移動する際の記憶が、人格としての順子には無かったのだろうか。鏡を見ても、初美の顔だとは認識しないという記述もあったから、そこは、人格が無視したとみなすのかもしれないが。どうも、多重人格に関する話を交えて、到叙ミステリを書いてみるという思惑の方が見えてしまい、ミステリのためのミステリという感じが否めない。「ダレカガナカニイル」の結末はすごく驚いたとともに感動したんだけどなぁ。残念な小説だった。