「そらトびタマシイ」 五十嵐大介

joyful2003-07-16


福島聡の「少年少女」をAmazonで買ったら、オススメされた一冊。「蟲師」にも似たややグロテスクなイメージが描かれるということで興味がわき、買ってみた。

本書は、五十嵐大介作品集ということで、都合、6本の短編が収められているのだけど、そのうちの表題作「そらトびたましい」、「熊殺し神盗み太郎の涙」、「未だ冬」は、まさにそういうグロテスクなイメージの奔流と言うのにふさわしい作品だった。

喰らうことと憑り付くことという一番根源にありそうなテーマを描いてる「そらトびたましい」。夢野久作のイメージとも重なる表象群に溢れる「熊殺し」。神話世界の放逸なまでの生の躍動感を象徴的に描いている「未だ冬」。そのどれもが、わずかな日常の綻び目からまろび出た先にある神々の領域を描いていると言えるだろう。

それは「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」で描かれる古来の民間信仰的な神々と同系の、裏の精神世界の住人たち。しかも、宮崎作品では詩化・神話化され、その原初的な力をそがれた感じがあるのに対して、こちらの作品ではそのグロテスクさを臆することなく描いているためか、圧倒的な生命力・原動力を感じた。

しいて難点を言えば、短編ゆえの量的な物足りなさ。ページ数のためか、作者の傾向なのか、どの作品もアレゴリカルであり、フェードアウトしていくような終わり方をしている。この作者による、これらの作品のような世界観での長編作を見てみたいと思うのは、自分だけじゃないはずだ。